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    2019 · 12 · 03 (Tue) 21:38

    337番(仮)すいぞくかんのペンギンが鬼のしまへゆく顛末その6の2

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    ぺんぎんと少年1


    337番は、部隊の一斉射撃をみるとすぐ、前を向いたままあわてて海に飛びこんだ。その瞬間、337番の時間がゆっくりと進み、視界は上方向へスライドしていく。

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    視界にくもり空が入る頃、337番の時間感覚は1秒が10秒になり、20秒が40秒に、5分が10分のように感じられた。


    時間が337番の中でとくしゅな変化を起こしていた。自分だけ別世界にいるような不思議な感覚。スローモーションとは、こんな状態を言うのだろうと思った。


    小さな体が徐々に地面と平行を保つ。水族館であんなに嫌だった壁は、ここにはない。自由は、もたれかかるものではないのかもしれない。小さなぺんぎんは、弱気になっていた。


    彼の体勢が空中でしなる弓のようになったとき、銃弾が胸元をかすめた。が、恐怖は感じなかった。浮遊感のある時間感覚が彼を麻痺させていたのかもしれない。彼の時間は速度を急激にゆるめたが、海に落ちる速度は増すばかりだ。



    337番は、離れていく崖の先端を見つめ、まだ諦めず狙撃の機会をうかがっていた。傷んだくちばしを力なく広げて。耳に神経を集中させて。しかしまだ人間たちの足音は聞こえない。



    「むりだ。」体勢を維持できないほど落ちる速度は速い。


    園長たちが崖から顔をだすことはなかった。ザブンと音を立て、337番は海にしずんでいく。最初は勢いよく海にめりこんで深く、つぎはクッションのようにやわらかく少し浮遊し、最後はもう、なすすべがない流れに身を任せた。


    「うまくいかない。」



    あの時も。337番は、海に流されながら思い出す。水族館内で生徒会グループを選出することになったんだ。人間でいうところのせんきょ。


    会長、副会長はじゅごんと、くらげが立候補した。おれは書記に立候補することになった。立候補といっても、クラス内でおしつけあいがはじまり、結果おれになっただけさ。トメさんを含め仲間達は、みんなぐーたらだった。


    選ばれたおれは、やりたくもない選挙活動をしたよ。頭も下げた。数匹一緒に選挙活動してくれた。すこしありがたかった。が、ほとんどは、あの脱出のとき、おれをかばって逝ってしまった。


    苦手な演説も終わり、投票結果がでた。おれは1票差でまけた。


    かわいいあの子は、微妙な顔。惨敗なら、笑い話にもなるだろう。1票差なんて、エピソードとしては、痛々しいだけじゃないか。そのとき、神様はいないと感じたんだ。笑い話にもならない負け。 ここにも神はいなかった。さいごに園長に一太刀浴びせたかった。が、仕方がない。


    「何を思い出しているんだろう」337番の口からゴボゴボ、ゴボゴボという音とともに酸素がなくなっていく。荒れ狂った海に翻弄される337番。ああ走馬灯。


    すこしの時間だけ自由になれたけど、このままでは、ごぼごぼ、ゴボゴボ。意識をたもてない。視界がみるみる狭くなっていく。337番は暗い海の底に吸い込まれていくようだった。







    はるか後方から、冷たい海流を縦横無尽にスーイスイ泳ぐ群れがみえる。



    自然あいてにつちかった逞しさで、激しい海の流れをものともせず、悠々と337番へとちかづいていく集団。



    野生のペンギンたちだ。傷つきうごかない彼を仲間だと確認すると、何もいわず群れで337番のまわりを囲み、激しい流れから守るよう進んでいった。


    空はぺんぎんたちの行動に敬意を払うかのよう、覆っている雲をすこし押し広げ、日の光で彼らを助けたようだった。ひかりをあびた野生の群れは、黄金色の一本の帯のよう。



    あれた海も少しずつ機嫌を直しはじめている。いつものおだやかな流れにもどり、群れはさらにおよぐ速度を上げた。やがてエリアeの海岸に到着したぺんぎんの群れは、337番を砂浜にそっと寝かせると、手を広げペタペタ、ヨチヨチと歩き、再び海へと消えていった。


    ぺんぎんと少年1



    その日少年は、偶然早起きをしていた。眠い目をこすり、ミルクで喉をすこし潤したあと、森の中にある家をいそいそとでた。めったにしない早朝のランニング。



    海岸までの道のりをゆっくりと走っていた。


    お気に入りの曲がポータブルプレイヤーから再生される寸前、遠くで横たわるなにかをみつけた。「砂浜になにかがいる。あれは魚でもないなー。」少年はすこしの不安と好奇心で足早に近づいていく。


    そこには傷だらけのぺんぎんがよこたわっていた。

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    最終更新日 : 2020-01-23

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